同じ言葉でも、東と西で高い・低いが入れかわります。京阪式アクセントのなかでも、このページではとりわけ大阪弁を扱います。
音の高低が、東京とは違う規則で動くからです。でも、その違いには法則があります。つかめば、ぐっと近づけます。まずは一語、見てみましょう。
同じ「はし」でも、上下がまるで逆。この「逆になる」感覚が、法則の入り口です。
すべて暗記する必要はありません。大阪アクセントは、いくつかの規則の組み合わせです。東京の方がつまずきやすい点を、3つに絞りました。
大阪の言葉は「高く始まる(高起式言葉を高く始める入り方。)」か「低く始まる(低起式言葉を低く始める入り方。)」のどちらか。この最初のひと声の高さこそ、東京と最も違う点です。
「雨」「春」「秋」「声」のように、東京で"高く入って下げる"言葉は、大阪では"低く入って上げる"。ちょうど上下がひっくり返ります。
下の言葉は、みなこのパターンです。ひとつ身につけば、まとめて応用できます。
上がって下がって、また上がる——そんなジグザグにはなりません。一度下がれば、終わりまで低いまま。「山はひとつ」と思えば、ずっと聞き取りやすくなります。
辞典の「法則2」フィルタで、この形の語をまとめて確かめられます。
「平ら(平板下がり目がなく、上げたら最後まで平ら。「が」も高いまま。)」か「最後で下がる(尾高語じたいは高いが、うしろの「が」で下がる型。)」かは、単語だけでは見分けにくいもの。うしろに「が」をつけて、そこで下がるかどうかで見分けます。
このページの曲線には、うすい「が」を添えています。そこに注目してください。
「法則3」フィルタで、「が」で見分ける語をまとめて見られます。
語尾に「やねん」を付けても、大阪の人にはすぐ分かります。バレる理由は言葉ではなく、音。実験研究(福盛・金濱 2019)で、原因は3つに整理されています。順に見ていきましょう。
ひとことで言うと東京にない音だから、そもそも出せない。
東京の言葉には、じつは厳しい決まりがあります。「1拍目と2拍目は、必ず高さが違う」。最初が高ければ次は下がる、最初が低ければ次は上がる。例外はほぼありません。
ところが大阪の言葉には、1拍目も2拍目も高い「高高型」と、どちらも低い「低低型」がある。東京の人にとって、これは生まれてから一度も出したことのない音です。だから、いちばん再現しにくい。
1拍目も2拍目も高い。飴・鼻・水・なおす も、この型。
1拍目も2拍目も低い。めっちゃ・なんぼ・しんどい も、この型。
ひとことで言うとその言葉が高く始まるか低く始まるかを、知らないから。
大阪の言葉には「高く始まるか、低く始まるか」という情報が、一語ずつ付いています。東京の言葉にこの区別はないので、頭の中の辞書に、その欄がそもそもない。だから飴を低く入ってしまう。
もうひとつ。東京では、音の上がり下がりは言葉ではなく「文のかたまり」に付きます。低く始まってなだらかに上がる、あの癖です。大阪弁は逆に、言葉ごとの入り方が文の中でも保たれ、高起式の言葉なら文の途中でも高く入り直す。東京の癖をそのまま持ち込むと(負の転移)、文全体が「東京の音」になります。この辞典の大原則(入り方)が効くのは、まさにここです。
ひとことで言うと「全部逆」と思い込んで、下げる場所を動かしてしまうから。
関西弁=東京の逆、と思い込んで、下げる場所を適当にずらす。すると、東京でも大阪でもない音になります。下がり目の位置は言葉ごとに決まっていて、動かせません。しかも実際は、神・紙・髪や、山・川のように東京と大阪で動きがほぼ同じ言葉もたくさんある。「全部逆」は思い込みです。
✗側は説明のための一例です。大阪の音(◯)はこの辞典のデータと同じです。
頭を強く「メッちゃ」と言いがち。大阪は低く入って「ちゃ」で上げる。
「ホンま」と頭高になりがち。大阪は低く入って「ま」で上げる。
「あカん」と真ん中を強く言いがち。大阪は高く入って平らのまま。
「やねん」を張り上げがち。大阪のてっぺんは「で」だけ。
①その言葉が高く始まるか、低く始まるかを、まずこの辞典で確かめる。②下がり目は動かさない。山は一語にひとつだけ。③「やねん」「へん」は最後でいい。語尾より先に、音。
語数を競うより、法則が身につくことを大切に。二拍名詞の「類」の代表語と、日々よく使う大阪弁から選んでいます。
食事のときに使う、細い二本の棒。
箸で豆つまむ。
川や道の上に渡す構造物。
橋わたって、向こう行こ。
ものの、はしのほう。ふち。
机の端に置いといて。
空から降る水。
雨、降ってきたわ。
砂糖などを固めた、甘い菓子。
飴なめときや。
草木の、色や香りのある部分。
花、咲いたなあ。
顔の中央にあって、においをかぐ器官。
鼻、むずむずするわ。
信仰の対象となる存在。
神さんに手を合わせよ。
字を書いたり包んだりする、薄いもの。
紙に書いといて。
頭に生える毛。
髪、切ってきたで。
四季のひとつ。暖かくなる季節。
春、来たなあ。
四季のひとつ。実りと涼しさの季節。
秋、深まってきたな。
水が流れる、自然の水路。
川で釣りしよ。
頭上に広がる、大気の空間。
空、見上げてみ。
無色透明の液体。
水、飲みや。
空気の流れ。
ええ風、吹いてるわ。
岩の小さいもの。
石、つまずかんときや。
高く盛り上がった土地。
山、登りに行こか。
陸をとりまく、広い塩水。
海、見に行かへん?
人になれ親しむ、四つ足の動物。
犬、散歩つれてくわ。
夜が明けてからの、日の前半。
朝、早いわ。
目・鼻・口のある、頭の前面。
顔、洗ってくるわ。
口から出す音。
大きい声で呼んで。
耳に聞こえるひびき。
なんか音、せえへんかった?
赤や青などの、見た目の性質。
ええ色やなあ。
布や裁縫に使う、細いすじ。
糸、通してくれへん?
「本当」の意味。
ほんまに、おおきに。
「とても」「すごく」の意味。
めっちゃ、おいしい。
「ありがとう」の意味。
まいど、おおきに。
「だめ」「いけない」の意味。
それは、あかんわ。
「つらい」「疲れた」の意味。
今日は、しんどいわ。
「片づける」「しまう」の意味。(「修理」だけではない)
皿、棚になおしといて。
「捨てる」の意味。
これ、ほかしといて。
「おいしい」「よい」の意味。
この店、いけるで。
いくら。値段や数量をたずねる言葉。
これ、なんぼ?
寒い。
今日、さぶいなあ。
あたたかい。
この部屋、ぬくいわ。
しかたがない。
まあ、しゃあないな。
かまわない。気にしなくていい。
ええよ、かまへん。
それでは。それじゃあ。
ほな、また明日な。
ばか。ただし親しみを込めて使うことも多い。
なんちゅう、あほなことを。
ものもらい(目のふちの炎症)。
めばちこ、できてしもた。
おもしろい。最上級のほめ言葉でもある。
あの人、ほんまおもろいわ。
くだらない。とるにたらない。
しょうもないこと言いなや。
お調子者。ふざけたがる人。
あいつ、いちびりやからなあ。
せっかち。待てない性分の人。
うちのおかん、いらちやねん。
意地悪。
いけず言わんといて。
ひどい。度をこえている。
えげつない値段やな。
動作がにぶい。要領が悪い。
われながら、どんくさいわ。
からかう。
おちょくったらあかんで。
そこそこ。ゆっくり、少しずつ。
もうかりまっか? ぼちぼちでんな。
ごめん。許して。
かんにんな、遅れてもうて。
あなた。大阪では相手を指すことがある。
じぶん、どこ出身なん?
新品。おろしたてのもの。
このシャツ、さらやねん。
あべこべ。互い違い。
靴下、テレコに履いてるで。
肉まんのこと。大阪では「肉」といえば牛なので、豚まんと呼ぶ。
ぶたまん、買うて帰ろ。
駐車場。大阪の街なかの看板でおなじみ。
そこのモータープール、停めとき。
うまいこと。具合よく。
あんじょう頼むわ。
とにかく。なにしろ。
なんしか、行ってみよや。
早く。
はよしいや。
すみません。
すんまへん、通してや。
単語をつかんだら、次は文です。大阪弁は、文全体の抑揚にも味があります。有名なフレーズで、その形を見てみましょう。
※ 文の抑揚は、気持ちや場面で変わります。なんでやねん・ほんまに・ちゃうちゃう・しらんけどは資料(福盛2020ほか)にもとづく形、ええやん・なにしてんは典型的な言い方の目安です。
難しそうな言葉も、意味はシンプルです。