OSAKA-BEN ACCENT

大阪弁アクセント辞典

同じ言葉でも、東と西で高い・低いが入れかわります。京阪式アクセントのなかでも、このページではとりわけ大阪弁を扱います。

東京式 大阪式 下がり目 うすい「が」=助詞
「京阪式アクセント」は学術的な呼び名で、京都・大阪・奈良などがこの仲間です。このページでは、そのなかでもとりわけ大阪弁のアクセントを扱います(筆者が大阪で育ったためです)。
東京の方が大阪のアクセントに戸惑うのは、無理もありません。

音の高低が、東京とは違う規則で動くからです。でも、その違いには法則があります。つかめば、ぐっと近づけます。まずは一語、見てみましょう。

はし
東京式・頭高最初の音がいちばん高く、すぐ下がる型。
高→低
「は」を高く出して下げる
大阪式・低起言葉を低く始める入り方。
低→高
「は」を低く入れて上げる

同じ「はし」でも、上下がまるで逆。この「逆になる」感覚が、法則の入り口です。

3 RULES

まずは、これだけ。習得の3法則

すべて暗記する必要はありません。大阪アクセントは、いくつかの規則の組み合わせです。東京の方がつまずきやすい点を、3つに絞りました。

まず、いちばん大事なのは言葉の「入り方」です。
高く入るか、低く入るか。ここで半分決まります。

大阪の言葉は「高く始まる(高起式言葉を高く始める入り方。)」か「低く始まる(低起式言葉を低く始める入り方。)」のどちらか。この最初のひと声の高さこそ、東京と最も違う点です。

法則 1

東京で高く始まる言葉は、大阪では低く始まる。

「雨」「春」「秋」「声」のように、東京で"高く入って下げる"言葉は、大阪では"低く入って上げる"。ちょうど上下がひっくり返ります。

東京 あめ ↘大阪 あめ ↗

下の言葉は、みなこのパターンです。ひとつ身につけば、まとめて応用できます。

東京は高く入って下げる大阪は低く入って上げる。同じ動きなので、まとめて覚えられます。
あめ
はる
あき
そら
うみ
あさ
こえ
いと
法則 2

大阪の言葉も、山はひとつ。

上がって下がって、また上がる——そんなジグザグにはなりません。一度下がれば、終わりまで低いまま。「山はひとつ」と思えば、ずっと聞き取りやすくなります。

辞典の「法則2」フィルタで、この形の語をまとめて確かめられます。

法則 3

単語だけでなく、「が」をつけて確かめる。

「平ら(平板下がり目がなく、上げたら最後まで平ら。「が」も高いまま。)」か「最後で下がる(尾高語じたいは高いが、うしろの「が」で下がる型。)」かは、単語だけでは見分けにくいもの。うしろに「が」をつけて、そこで下がるかどうかで見分けます。

このページの曲線には、うすい「が」を添えています。そこに注目してください。

「法則3」フィルタで、「が」で見分ける語をまとめて見られます。

WHY FAKE?

なぜ「エセ」っぽくなるのか

語尾に「やねん」を付けても、大阪の人にはすぐ分かります。バレる理由は言葉ではなく、音。実験研究(福盛・金濱 2019)で、原因は3つに整理されています。順に見ていきましょう。

理由 1

東京の音には「ない型」が、大阪にはある。

ひとことで言うと東京にない音だから、そもそも出せない。

東京の言葉には、じつは厳しい決まりがあります。「1拍目と2拍目は、必ず高さが違う」。最初が高ければ次は下がる、最初が低ければ次は上がる。例外はほぼありません。

ところが大阪の言葉には、1拍目も2拍目も高い「高高型」と、どちらも低い「低低型」がある。東京の人にとって、これは生まれてから一度も出したことのない音です。だから、いちばん再現しにくい。

高高型(東京にない)
あかん

1拍目も2拍目も高い。飴・鼻・水・なおす も、この型。

低低型(東京にない)
ほんま

1拍目も2拍目も低い。めっちゃ・なんぼ・しんどい も、この型。

理由 2

「入り方」の情報が、頭の辞書に入っていない。

ひとことで言うとその言葉が高く始まるか低く始まるかを、知らないから。

大阪の言葉には「高く始まるか、低く始まるか」という情報が、一語ずつ付いています。東京の言葉にこの区別はないので、頭の中の辞書に、その欄がそもそもない。だから飴を低く入ってしまう。

もうひとつ。東京では、音の上がり下がりは言葉ではなく「文のかたまり」に付きます。低く始まってなだらかに上がる、あの癖です。大阪弁は逆に、言葉ごとの入り方が文の中でも保たれ、高起式の言葉なら文の途中でも高く入り直す。東京の癖をそのまま持ち込むと(負の転移)、文全体が「東京の音」になります。この辞典の大原則(入り方)が効くのは、まさにここです。

理由 3

「とにかく逆にすればいい」と、下がり目を勝手に動かす。

ひとことで言うと「全部逆」と思い込んで、下げる場所を動かしてしまうから。

関西弁=東京の逆、と思い込んで、下げる場所を適当にずらす。すると、東京でも大阪でもない音になります。下がり目の位置は言葉ごとに決まっていて、動かせません。しかも実際は、神・紙・髪や、山・川のように東京と大阪で動きがほぼ同じ言葉もたくさんある。「全部逆」は思い込みです。

ありがちな言い方と、大阪の音

✗側は説明のための一例です。大阪の音(◯)はこの辞典のデータと同じです。

めっちゃ
✗ ありがちな言い方(例)
ちゃ
◯ 大阪
ちゃ

頭を強く「メッちゃ」と言いがち。大阪は低く入って「ちゃ」で上げる。

ほんま
✗ ありがちな言い方(例)
◯ 大阪

「ホンま」と頭高になりがち。大阪は低く入って「ま」で上げる。

あかん
✗ ありがちな言い方(例)
◯ 大阪

「あカん」と真ん中を強く言いがち。大阪は高く入って平らのまま。

なんでやねん
✗ ありがちな言い方(例)
◯ 大阪

「やねん」を張り上げがち。大阪のてっぺんは「で」だけ。

エセを抜け出す、3か条。

①その言葉が高く始まるか、低く始まるかを、まずこの辞典で確かめる。②下がり目は動かさない。山は一語にひとつだけ。③「やねん」「へん」は最後でいい。語尾より先に、音

DICTIONARY

辞典で、一語ずつ確かめる

語数を競うより、法則が身につくことを大切に。二拍名詞の「類」の代表語と、日々よく使う大阪弁から選んでいます。

61 語
はし
東西で逆
東京 頭高大阪 低起
食事のときに使う、細い二本の棒。
はし
東西で逆法則3
東京 尾高大阪 高低
川や道の上に渡す構造物。
はし
法則3
東京 平板大阪 高起
ものの、はしのほう。ふち。
あめ
東西で逆法則1
東京 頭高大阪 低起
空から降る水。
あめ
法則3
東京 平板大阪 高起
砂糖などを固めた、甘い菓子。
はな
東西で逆法則3
東京 尾高大阪 高低
草木の、色や香りのある部分。
はな
法則3
東京 平板大阪 高起
顔の中央にあって、においをかぐ器官。
かみ
東京 頭高大阪 高低
信仰の対象となる存在。
かみ
東西で逆法則3
東京 尾高大阪 高低
字を書いたり包んだりする、薄いもの。
かみ
東西で逆法則3
東京 尾高大阪 高低
頭に生える毛。
はる
東西で逆法則1
東京 頭高大阪 低起
四季のひとつ。暖かくなる季節。
あき
東西で逆法則1
東京 頭高大阪 低起
四季のひとつ。実りと涼しさの季節。
かわ
東西で逆
東京 尾高大阪 高低
水が流れる、自然の水路。
そら
東西で逆法則1
東京 頭高大阪 低起
頭上に広がる、大気の空間。
みず
東京 平板大阪 高起
無色透明の液体。
かぜ
東京 平板大阪 高起
空気の流れ。
いし
東西で逆
東京 尾高大阪 高低
岩の小さいもの。
やま
東西で逆
東京 尾高大阪 高低
高く盛り上がった土地。
うみ
東西で逆法則1
東京 頭高大阪 低起
陸をとりまく、広い塩水。
いぬ
東西で逆
東京 尾高大阪 高低
人になれ親しむ、四つ足の動物。
あさ
東西で逆法則1
東京 頭高大阪 低起
夜が明けてからの、日の前半。
かお
東京 平板大阪 高起
目・鼻・口のある、頭の前面。
こえ
東西で逆法則1
東京 頭高大阪 低起
口から出す音。
おと
東西で逆
東京 尾高大阪 高低
耳に聞こえるひびき。
いろ
東西で逆
東京 尾高大阪 高低
赤や青などの、見た目の性質。
いと
東西で逆法則1
東京 頭高大阪 低起
布や裁縫に使う、細いすじ。
ほんま
大阪 低起
「本当」の意味。
めっちゃ
ちゃ
大阪 低起
「とても」「すごく」の意味。
おおきに
法則2
大阪 中高
「ありがとう」の意味。
あかん
大阪 高起
「だめ」「いけない」の意味。
しんどい
法則2
大阪 中高
「つらい」「疲れた」の意味。
なおす
大阪 高起
「片づける」「しまう」の意味。(「修理」だけではない)
ほかす
大阪 高起
「捨てる」の意味。
いける
大阪 高起
「おいしい」「よい」の意味。
なんぼ
大阪 低起
いくら。値段や数量をたずねる言葉。
さぶい
大阪 頭高
寒い。
ぬくい
大阪 頭高
あたたかい。
しゃあない
しゃ
大阪 高低
しかたがない。
かまへん
大阪 頭高
かまわない。気にしなくていい。
ほな
大阪 頭高
それでは。それじゃあ。
あほ
大阪 低起
ばか。ただし親しみを込めて使うことも多い。
めばちこ
法則2
大阪 中高
ものもらい(目のふちの炎症)。
おもろい
大阪 高低
おもしろい。最上級のほめ言葉でもある。
しょうもない
法則2
しょ
大阪 中高
くだらない。とるにたらない。
いちびり
法則2
大阪 中高
お調子者。ふざけたがる人。
いらち
法則2
大阪 中高
せっかち。待てない性分の人。
いけず
法則2
大阪 中高
意地悪。
えげつない
大阪 高低
ひどい。度をこえている。
どんくさい
大阪 高低
動作がにぶい。要領が悪い。
おちょくる
ちょ
大阪 高起
からかう。
ぼちぼち
法則2
大阪 中高
そこそこ。ゆっくり、少しずつ。
かんにん
大阪 低起
ごめん。許して。
じぶん
大阪 低起
あなた。大阪では相手を指すことがある。
さら
大阪 低起
新品。おろしたてのもの。
てれこ
大阪 低起
あべこべ。互い違い。
ぶたまん
大阪 低起
肉まんのこと。大阪では「肉」といえば牛なので、豚まんと呼ぶ。
もーたーぷーる
大阪 高低
駐車場。大阪の街なかの看板でおなじみ。
あんじょう
じょ
大阪 低起
うまいこと。具合よく。
なんしか
法則2
大阪 中高
とにかく。なにしろ。
はよ
大阪 低起
早く。
すんまへん
大阪 高起
すみません。
PHRASES

文でも、見てみましょう

単語をつかんだら、次は文です。大阪弁は、文全体の抑揚にも味があります。有名なフレーズで、その形を見てみましょう。

なんでやねん
ツッコミの定番。「どういうことだ」。
「で」だけをてっぺんに、あとはストンと落とす。この落差がツッコミの気持ちよさ。
ほんまに
「本当に」。驚きや強調に。
低いまま行って、最後の「に」でひょいと上がる。
ちゃうちゃう
「違う違う」。否定を重ねて。
ちゃちゃ
高いまま、平らにトントンと二回。下げずに言うのがコツ。
しらんけど
言うだけ言って、責任は持たない、という締め。
「しらん」を高く平らに、「けど」でふっと引く。投げやりな軽さが出る。
ええやん
「いいじゃない」。賛成やほめ言葉に。
「え」から「え」でひょいと上げて、「やん」で下ろす。
なにしてん
「何してるの」。あきれ・つっこみにも。
「な」で高く入って、いったん下げて、また持ち上げて締める。

※ 文の抑揚は、気持ちや場面で変わります。なんでやねん・ほんまに・ちゃうちゃう・しらんけどは資料(福盛2020ほか)にもとづく形、ええやん・なにしてんは典型的な言い方の目安です。

TERMS

アクセントの言葉、ミニ辞典

難しそうな言葉も、意味はシンプルです。

京阪式けいはんしき
京都・大阪・奈良あたりのアクセントをまとめた、学術的な呼び名。このページで扱う大阪弁も、その仲間です。
高起式こうきしき
言葉を高く始める入り方。大阪アクセントの土台のひとつです。
低起式ていきしき
言葉を低く始める入り方。もうひとつの土台です。
下がり目さがりめ
高い音から低い音へ落ちるところ。曲線では黄色い点。ここが型を決めます。
平板へいばん
下がり目のない型。上げたら最後まで平ら。「が」も高いままです。
頭高あたまだか
最初の音がいちばん高く、すぐ下がる型。
尾高おだか
語じたいは高いが、うしろの「が」で下がる型。単独では平板と見分けにくい。
アクセントについて。アクセントには地域差・世代差があり、資料によって書き方も異なります。ここでの東京式は一般的なアクセント辞典に、大阪式は二拍名詞の「類」の規則にもとづく学習の目安です。とくに大阪式や「法則」は傾向をつかむためのもので、例外もあります。なお大阪では、京都と違って4類(空・海)が5類(雨・春)に合流し、同じ「低高低」になります。東京式は中輪東京式(1類=平板・2/3類=尾高・4/5類=頭高)を採用しており、現代では花・犬・髪などが平板化するゆれもあります。ネイティブの実感に合わせて調整できるようにしています。
主な出典:福盛貴弘(2020)「いかにも大阪弁のアクセント資料」/福盛貴弘・金濱茉由(2019)「エセ大阪弁の音声学的特徴」/中井幸比古(2002)『京阪系アクセント辞典』/金田一春彦の語類分類/NHK『日本語発音アクセント新辞典』